《 無 双 》 By. ELC

    悪い事をした訳ではない。
    自分の立場で言えば、そう言う事になる。
    ・・・・・・是否も無い。
    一巡して反転した砂時計の様に、受け止めれば戻ってくる訳でもない。
    流れた時間は・・・
    「2度と戻らない・・・か」
    デーモンはそこで、ペンを置いた。
    再び書き出そうとするが、良いフレーズが思い浮かばない。
    教典制作中に思い余って、誰にも言わず決行した小旅行。
    (帰ったら、皆に文句の一つでも言われるだろう・・・)
    ホテルの一室
    まともなテーブルなど置いてあるはずも無く
    机代わりに鏡台を使い
    ほお杖をつきながら鏡と対面していた。
    ふと、鏡に触れると、波紋が出来たような錯覚さえ起きる。
    要は既に歌詞の題材よりも、気が散って一名で遊んでいる所だ。
    小樽築港・・・・。
    来るまでに電車まで包んでしまいそうな高さまで積もる雪を見ながら
    海に浮かぶ流氷まで眺めて、
    何故か、
    先刻から別段気にも止めなかった筈のスキー場に面した山側や
    道路に沿って並ぶ、柔らかな光を抱く街灯に雪が触れては煌く姿を思い浮かべている。
    (折角のオーシャンビューなのにな)
    鏡の端に雪が映るのが見え
    デーモンはカーテンを閉めに行き気づく
    「海は空からの来訪者に冷たいな・・・・」
    僅かに目を細め、何ともいえない哀しさに心まで奪われた。
    ただ深く静かに雪が降り続いているだけである。
    ただ・・・・・・・・海に。
    一つ一つ海に浮かんでは、瞬く間に荒い波にのまれていく
    降る場所を選べず海に消えていく・・・。
    空寒さを覚えて身震いした。
    ガラス窓にしがみつく様に見詰め続け、彼らを見殺しにする
    思わず耳を塞いだ。
    風に乗り届く雪の嘆く声を聞かぬように・・・・・・・・・・・・


    「お客様、お電話です・・・・御繋ぎしますね」
    フロントからの電話で目が覚めた。
    いつのまにか、寝てしまったらしい。
    器用にベットに居た。
    そのまま外線を押すと口やかましい声がする
    <どうして一名で出掛けたんだよ?>
    「・・・・・・気分転換に」聞こえない程度に苦笑する
    <俺達だって、行きたかったのにっ!!>
    「・・・・・・外からの方が新たな発見がある」ナイトテーブルの煙草に手を伸ばした。
    <絶対土産買って来いよっ!!>
    「ああ・・・解っている」
    我輩も、どうやら雪らしい・・・・・そして、たった今山に受けとめられた様だ
    壁の向こうにある筈の山を
    今は決して視界に入らない筈の景色が過る。

       心が痛くて堪らなくなったら、雪を見においでよ
       胸一杯抱いて溶かせば春が来る
       柔らかな眼差しで一緒に愛しんで・・・・・

    受話器を置いた時
    山に残る雪がそう呟いたのが聞こえた。

    Fin


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“エルミタージュ” ELC様より。カウンター1412番獲得で頂いた小説。
「閣下ネタで、哀愁漂うモノ」の巻。窓の外の鉛色の海。冷たい風と閣下の切なそうな感じが、
まざまざと浮かんでくる。でもラストでホッとさせる辺りが、ニクイのです。(笑)
ELC様、ありがとうございました。vvv






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